6/13
本日発売のアルバム「Segment of Cakes」に寄せて。
約1年半前には既に出来上がっていたこの作品、ここまで来るのには本当に長い道のりがありました。
出来上がった当初はまさかこんなに色んな人にいいと言ってもらえるとは思っていませんでした。
アーティストを拗らせに拗らせていた自分が、一度頭を柔らかくしてみようと試しに作った側面のある今作品。
少し肩の力を抜くくらいが人には伝わりやすいという学びをくれました。
音楽を好きになればなるほど、自分よりも好きではない人に届くものを作らなければ生きていけない。
だから、「好きなことを仕事にすると辛くなる」という人もいるんだと思います。
ただ、それには少し語弊があるというか、いくつもの解釈が存在しています。
アーティスト的な狭く深い、自らの好きを追求することを目指す人が、好きなことだけで生きていくのにはやはり大きなハードルと運の要素が介在します。
一方で、広く浅い、相手へと届けることを第一義としたデザイナー的なアプローチをする人が、果たしてその対象を好きだと自信を持って言えるのか。そしていいものを作ることが出来るのか。
それにもまた議論があります。
実際には二項対立的な構造ではなくグラデーションになっているものですが、僕は結局、広くて深い人間が一番強いのだと思います。
以前、ブログにも書いたことがありますが、
「音楽が好き」と、「好きな音楽がある」には大きな隔たりがあります。
自信を持って前者だと言える人ほど、こだわりが強くなってしまい、結果世の中ではマジョリティに当たるであろう後者にそれが伝わらない、という現象が往々にして起こります。
しかし、だからといって後者の人間が作ったものが、誰かに伝わるかというと、実はそれも伝わらないことが多いのです。
人のアンテナというのは不思議なもので、「細かいこだわりまではわからないけど、この人は何かが違うぞ」というのを見抜く人は存外たくさんいるものです。
だから、全方位的な「好き」を自分の中にちゃんと確保して、人々の耳にそれを気付かせる必要がある。
残念ながらそれは伝わらないことの方が多いのですが、繰り返していけばきっとどこかで気付いてもらえるのだと思います。
「成功しないのは才能がないから」と言う人がいるのはそう言うことなのでしょう。
「Segment fo Cakes」以前の僕は、細かいこだわりと自己主張を洗練させることに必死でした。
自分とは何なのか、自分らしさを主張するために何をすべきなのか。
今も考えていることは一緒ですが、少し視野が狭まっていたのだと思います。
まさに若さゆえの何某、というやつです。
結果、自分にとっては忘れることの出来ない大事な音楽を作ることは出来ましたが、多くの人にとってそれは魅力的には写らないようでした。
随分と悩んだものですが、今ではそれも無駄ではなかったと思えます。
twitterでは告知をしましたが、旧作のCDが自宅から偶然見付かったため、現在ネットショップで販売をしています。
それが、驚くほどに売れています。
そして多くの方に「昔の曲も良いね」と言って頂けている。
あの頃よりもはるかにたくさんの人が、自分の作る音楽を聴いて、何かを考えてくれている。
今の自分が作ったものが、昔の自分へ誰かを繋げてくれている。
とてもありがたいことだと思います。
比較的、性格には難があると言われる方なのですが、昔はただしゃべっているだけなのに「気に入らない」という理由で殴られたことも何度かありました。
親戚に殴られて「お前は性根が腐ってる」と言われたこともあります。
家族には今まで一度も音楽をやりたいという気持ちを応援されたことはありませんでした。
その家族が、今は「私は恋する幽霊が一番好きだから、ああいう曲をもっと作って」と言ってくれます。
兄の奥さんがサイン入りCDが欲しいからと購入してくれたりします。
今になってみれば、ただ心配なだけだったんだなと言うのがよくわかります。
そしてそれは進行形で続いていることでしょう。
自分が一番詳しい数値化出来ないスキルに関して、自分より詳しくない人にどう優れているか説明するのはとても難しいことです。
今まで一回も成功したことがない。
結局一旦はだけど、納得させることが出来たのは数字だったのかなと思います。
YouTubeで1万回再生されてコメントもたくさんもらって、ツイッターで拡散されて、クラウドファンディングで72万¥集めて、CDが全国流通することになった。
良くも悪くも、これは全部一人では出来ないことだったなと思います。
広大なインターネットの海の中で、自分を見付けてくれて評価・支援してくれた皆さんのおかげです。
全てに納得しているわけではないし、もっとこれからやらなければならないことはたくさんあると思います。
課題やタスクを感じつつもサボり続けている自分にいい加減危機感と嫌悪を募らせてもいます。
ですが、ひとまず皆さんにお礼を言わせてください。
ようやっと、自分の作品をちゃんと世に出すことが出来ました。
ありがとうございます。
今日この日くらいは自分のことを褒めてやりたい。
CD、買うか否かは本当に個々にお任せします(買ってくれると支援にはなるけどネ)。
僕の家には再生機器がありませんし、そう言う人も多いと思うから。
みんな好きなように、好きな音楽を聴けばいい。
そしていつか僕の作った音楽に辿り着いてくれたら嬉しいです。
最後に、伊坂幸太郎氏が好きなんですが、魔王という小説から好きな言葉を引用して今日はおしまいにします。
でたらめでもいいから、自分の考えを信じて、対決していけば世界は変わる。
僕もそう強く信じています。
本日のおべんちゃらは以上。